桜の木の誓い
「お侍はん!おもてでえらい激怒したお相撲はんが呼んでいるさかい……どうにか…」


部屋の襖が乱暴に開けられたかと思うと、店の主人が現れあたふたしながらそう言った。

もうどうにかしてくれといった表情だったため、優真は自然と柄に触れていた手を離す。


はぁ……。
奇襲かと思ったら店の主人か。

でもお相撲はんって……


その時、優真はふと何刻か前のことを思い出した。


「もしかしてさっきの力士か?」


優真の思考を代弁するかのように永倉がぼそりと言った。


「えぇ〜?それってなんかの間違いじゃないいんですか〜?ふふっ」

「総司!お前飲み過ぎだ」

「そんなことないですよ〜。あぁ〜なんか楽しいですねぇ〜」


今だにちょびちょびと飲みながらはっきりとしない口調で話す沖田に、永倉は顔を顰めて沖田の手にある盃を取り上げる。


そこでまた誰かがドタバタと部屋に入ってきた。


「芹沢先生!力士が店の前に何十人もいます!それに手には武器も」


何時の間にか外の様子を見に行ってきた野口が焦ったように言った。

それを聞いた芹沢は急に真剣な顔つきになり「うむ…」と考え込む。そしてゆっくりと立ち上がると部屋をよたよたと出て行った。

その後を追うように平山と野口が急いで部屋を出て行く。


「なんだぁ?」

「永倉さん、見てきて」

「はぁ!?優真が行けよ」

「面倒なことには関わりたくない主義なんで」

「俺もだよ!」

「まあまあ、皆で行きましょうよ〜」


そう言って沖田は永倉と優真の手を取り立たせると外へ促した。
二人は沖田の自分達の手を掴む力が強くて、仕方なく店のおもてへと歩き始める。

永倉と優真は思った。


───予感は当たった、と。





二人の後ろ姿を見た沖田は満足そうに微笑み、パッと部屋の隅を見て山南と、あたかも“ここにはいませんよ”という空気を醸し出している斎藤と島田にニコリと妖艶の笑みを見せると、


「さあ、お三方。私達も行きましょう。斎藤さんも回復したみたいですしね」


そう言った。


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