桜の木の誓い
「おいおい……」
永倉は眼前で繰り広げられている光景に目を瞑りたくなった。優真もまた同様。
「想像以上に厄介だな」
「…そ、そうだね」
永倉の言葉に優真は顔を引きつらせながら答えた。
どういう経緯でそうなったのか判らないが、芹沢と平山と野口は抜刀していた。
その少し離れた所には、何刻か前に会った時よりも数が増えた力士達が八角棒を構えて、今にも飛び掛かってきそうな雰囲気だ。
一触即発のこの状況に、優真は眉間に皺を寄せてどうしたものかと考える。
今の力士達は怒りに感情が支配されている状態………下手にこちらが動いたら、戦い慣れていない力士達は咄嗟に棒を振り上げてくる可能性がある。
芹沢さん達も動く気配がない。
だとしたら、もう少し様子を窺うしかない………か。
優真がそう結論に達した時、この場には似つかわしくない声が響き渡った。
「皆さ〜ん、楽しんでますか〜」
──沖田だ。
しーんっとしたこの緊迫した空間に放たれた楽しそうな声は、一人一人の耳に自然と入った。
力士達はその声の主をぐわっと鬼の形相で睨み付ける。それを見て優真は慌てて、まだ何か言おうとしている沖田を止めにかかった。
「総司!黙って「あいつら絶対俺らをなめてるで!」
「頭にくるな!」
「そうや、そうや!」
「田舎侍のくせに!」
「──田舎侍…だと?」
今まで黙秘していた芹沢が酷く冷め切った音色で言った。
「そうや!よう聞くで。武士の出でもないのに刀振り回しとる人斬り集団がおるってな!正に偽侍や!」
「ほう…儂にそのような口を利くとは」
芹沢はそう言うと“田舎侍”と言った一際大きい力士に自身の刀を振り上げる。
「芹沢さん!」
優真は咄嗟に叫んだ。