桜の木の誓い

「まだあの団子食べたかったのにー…」


帰路につきながら沖田はプクッと頬を膨らませていじける。


「あのねぇ、総司は食べ過ぎだから」

「だって美味しい団子がいけないんですよ! 私を誘惑しちゃって」

「誘惑って…」


そんなことを言い合いつつも二人は急ぎ足で道を進めていた。 先程よりも幾分か雨脚は強くなっているみたいだ。

藤堂が鬱陶しそうに顔に張り付いた横髪を払った時、隣にいたはずの沖田の姿がないことに気付いた。

何処に行ったのかとキョロキョロと辺りを見廻すと、後方で何処か一点を見つめ立ち尽くす沖田を見つけた。

どうやら途中で走るのを止めたらしい。


「総司! 俺、風邪ひきたくないんだけど!」


雨音に負けないようわざと嫌みたらしい口調で叫んだ藤堂。
 
しかし、それを堂々と無視し依然として動かない沖田に痺れを切らすと、元来た道を戻る。


「ねぇ、いい加減にしてよ」


怒気を含んだ声で藤堂は沖田の躯を揺らす。


「……平助、あれ人に見えませんか」


沖田は道外れの暗闇から視線をずらすことなく静かに訊ねた。
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