桜の木の誓い
陸.個々の行く末は
「どうも…」
「「……………」」
道場には妙な空気が流れた。
生暖かい風が隊士達の間を吹き抜ける。
「………」
「………」
「………」
「………」
「………」
「………」
誰も何も話さない、いや、この微妙な雰囲気に誰もが口を開くことが出来ないのだ。
「遅くなってすみません……って、皆して何突っ立てるんですか?」
((林!!))
仏の助けとも言える信太郎の登場に、隊士等は縋るような目で信太郎を見る。
その様子に信太郎は潔く状況を理解したのか、隊士達から少し離れた所で此方を見ている人物の元へと行く。
「先生、もっと笑って下さい。他の者が戸惑ってますよ」
「いや…愛想笑いはどうも──」
苦手というか無理に近い、そう言った優真に信太郎は苦笑いする。
基本、試衛館一派の者か信太郎としか話さない優真は、隊士達からしたら謎多き人物だった。
裏では冷徹の美男子と噂され、あまり笑わず、冷たい印象を受ける顔、華奢な身体つき、それでいて華麗かつ俊敏な剣術を操り、異質な雰囲気を身に纏う──…。
そんな優真が初めて隊士達に剣の指導をするという。
隊士等は皆、緊張、期待、不安、憧憬、そんな様々な感情を胸に今この場にいた。
(上手く教えれるかな………くっ…、土方さんめ)
一方の優真は、この状況に心底嫌気が差していた。
先日の大坂の件で土方から、
『しょうがねぇ…あれは忘れてやる。変わりに隊士等の剣術指導をしろ』
そう言ってほくそ笑んだのだ。
(私に指導させたかっただけのくせに…!)
女だとばれない為に隊士達との接触は隊務以外、極力避けていた優真はその時のことを思い出して溜息をついた。
こうなったならしょうがない、優真は覚悟を決め隊士達に向かって言った。
「稽古を始めます」