桜の木の誓い
「佐々木…」


沖田は、やはり先程見かけたのは佐々木だったのだと思った。

そしてスッと、佐々木の少し後ろで愛らしい笑みを浮かべた女性に視線を向ける。隣に立つ優真もその女性を見ていることが判った。


上質そうな紅の生地に色とりどりの小さな華が咲き誇っている着物。

その着物によって更に際立つ彼女の肌の白さ、可愛らしい唇。

お世辞にも高いとは言えない佐々木よりも遥かに小さい背丈。


佐々木も整った顔つきをしているので、二人並ぶと美男美女という言葉がしっくりくる。


(これは、…もうベタ惚れって奴ね)


優真はそう思いながら佐々木の方へと視線を戻す。

彼女と話す佐々木のその表情は、正に愛しそうな、大切そうな、そんな愛に満ちた表情。
屯所内では見せない彼女だけが知る佐々木の顔なのだろう。



その様子を見て、優真はふっと微笑み思う。

このご時世、更には浪士組という日々危険と隣り合わせの組織に属している者にとって安らぎの場があるというのは何と幸せなことなのか。

そして、佐々木にはこの愛らしい女性が安らぎの場なのだと。



「此方は沖田先生と立花先生。僕が凄くお世話になっているんだ、あぐり。お二人共強いんだよ」

「まぁ!凄い方なんやね。初めまして、あぐりと申します」


佐々木の言葉に女性、─あぐりは驚くもすぐに微笑みお辞儀をする。それにつられ、沖田と優真もまた自身の名を述べ挨拶した。


「佐々木とあぐりさんって…」


優真がそう口を開くと、佐々木は恥ずかしそうに頬を赤らめた。


「は、はい…その、僕の大切な人、です」


そう言ってあぐりと目を合わせ微笑み合う。


(ほんと、幸せそう…)


その様子は誰がどう見ても幸せそうだった。この場にいる者全員が、もしかすると二人が夫婦となる日も近いかもしれないと思った。



──周りでからかう隊士も。


──二人の馴れ初めを訊く沖田も。


──その様子を微笑ましそうに見つめる優真も。



この幸せそうな二人にあんなことが起こるなんて誰が予想出来ただろうか。

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