Butterfly's dream ―自我の境界線―
 「では、ご家族の皆様。処置の中断を致します」



 極めて冷静に、そして事務的に橘は言う。


 しばしの沈黙が落ち、その沈黙の中、橘はゆっくりと生命維持装置に歩み寄る。

 固唾を飲んで橘の指先を見詰める瑞樹の両親の視線にやりづらさを感じながら橘は装置に手を掛けた。


 ボタンを押す。


 その瞬間、後ろから「ひっ」っと小さく慄くような声が聞こえる。


 静かに一定のリズムを刻んでいた電子音が少しずつ間延びし始める。
 その音に合わせて痩せて衰えた瑞樹の胸の動きの間隔も伸び、上下の動きも浅くなった。


 そして維持装置のディスプレイで山と谷を築いていたラインは静かに水平を描く。

 無情な電子音が終焉を奏で、その音に呼応して怨嗟を含んだ泣き声が病室に満ちた。
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