かくしご
 「裏の小母さんに和裁を習って、
 子供達の浴衣から仕立てようと思っていました。 

 子供が小学校に行くようになったので、
 今までできなかった事を始めようと思っていたんです。

 そして、手が慣れたら、あなたの浴衣。 

 私は、女学校時代あまり勉強する間がなかったので、
 よく分からないのです。 

 でも、できもしないのに
 去年の夏の終わりに浴衣の反物買ってしまったんです。」
薄暗い部屋のなかでみつは、ゆっくり話し続けた。

 「信子ちゃんを引き取ってからは、
 そんな時間はあきらめました。
 家を出ると ご近所の人が、
 私の顔を見て、何か言っているんです。 
 洗濯物を干す時も 誰かが私の話をしています。
 子供の学校の父兄会も行かなくなりました。」

いつになく 信太郎は、みつの話を聞いた。ただただ頷いた。
30分たってもみつの話は終わらなかった。
内容は繰り返しだったが、じっと聞いていた。

 「人に会うのが怖いわ。」

< 44 / 47 >

この作品をシェア

pagetop