『私も歩けばイケメンにあたる♪』

その日の朝、
化粧くらいしなさい、という
栞の忠告で、

私の手元には、
何種類かの化粧道具が揃っていた。

もちろん、栞からの借り物だ。
私に貸しても、どうってことないくらい、
栞は化粧道具をもっているらしい。

でもなぁ・・

使い方は、栞にレクチャーしてもらい、
なんとか自分ひとりで一通りできるようになったものの、
鏡を見て、不安になる。

と、その時、

ノックの音がして、
入るぞ、というあいつの声が聞こえた。


「だめ!今着替え中だから!」

慌てる私の声に、
扉は少しだけ開いたかと思うと、
そのまま、ぴたりととまった。


「俺先に出るから。
駅前の改札まで来いよ。」

ドアの隙間から、
あいつの声がくぐもって聞こえる。


「え?一緒に出ないの?」

てっきり、一緒に出かけると思っていた私は、
椅子から立ち上がって、
姿の見えないあいつのほうを向いた。


「あ?
デートは、待ち合わせが基本だろうが。
ムードのないやつだな。

今度のあだ名は、KY女で決まりだな。」



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