The Last Lie
『なに逃げてんの?』
私を抱き締める腕も、
耳元で聞こえる声も、
私の心臓を痛い位締め付ける。
『言ったじゃん』
『…ふっ…っく、』
『俺、いずれわかるって言ったよね?』
『…っ、く、…』
『だから俺、
…伊川君が嫌いなんだよ』
柚杞じゃない腕の中は苦しかった。
まだ暑さの残る夕暮れ。
静かな住宅地で、
泣きじゃくる私を抱き締める彼が、以前言った“忠告”を思い出した。
“人って揺らぐ生き物なんだよ…男も女も、”
“もちろん、伊川君も樺乃ちゃんもね”
ねぇ、柚杞。
私はどっちだったの?
柚杞にとって“揺らぎ”だったのはどっち?
私は、
…楓さんの代わりだった?