The Last Lie


図書室に入る直前、扉に手をかけた時、私を呼ぶ彼の声がした。



そう、その"ただ一人"の声がした。



扉をスライドさせながら斜め上を見上げる。



柚杞よりも少し低い(といっても私より20センチ以上高い)彼の目線に、私はいつからこんなに慣れたんだろう。



柚杞を見上げるとき、目よりも下に一度視線がいくようになったのは、


いつからだったんだろう。



『五十嵐くん、図書委員が遅刻しちゃ駄目じゃん』



柚杞の前で出せなくなったこの笑顔を、


私はいつからこの人に向けるようになったんだろう。


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