The Last Lie

チラリと周りの生徒に目をやってから、私の前まで歩いてくる。

『樺乃、』

柚杞の声が異様にはっきり聞こえる気がする。周りの視線が、やっぱりちょっと痛い。


<えっ嘘>
<あの人が彼女なんだー>
<なんか、ショック>


声が、聞こえる。


『今日なんかあんの?』
こんな時に限ってされる、いつもは聞かれない質問に柚杞の意図なんて全然見えない。


『なんか、って?』

『本とか、』

『あぁ、今日は行かないでそのまま帰るよ?』

『じゃあ今日家来て。帰り教室行くから』


それだけ言うと香汰君のとこに戻ろうと背を向ける。

え?柚杞ん家?てゆーか、いっつも水曜はバイトじゃなかった?忘れてる?

とりあえず混乱したまんま呼び止めて、


『柚杞っ』


すぐに後悔した。


<彼女はいいよねー>
<名前で呼んで見せつけてんの?>


直接聞いたのは初めてで、目にじわりと熱いものがこみあげてくる。悲しめる理由なんかないのに。この子達と同じように、私だって柚杞の゙特別゙な訳じゃない。だからこそ私は笑わなきゃなんない。

『今日バイトじゃなかった?』

私の呼び掛けで振り向いた柚杞にバレないように、頑張ったいつもの笑顔は、

『今日は無し。

…樺乃、どうした』


独り言に近い感じのその問い掛けで無意味なものになった。



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