The Last Lie
どうしたって聞かれても言えっこない。
『………』
何にも言えなくて視線を逸らした私の目元に長い指が伸びてくる。その指は驚く程優しい。
『帰り、すぐ行くから教室いろよ』
唯一こぼれたその一筋を拭って少し目を細める柚杞。
伊川柚杞(いがわ ゆき)。
その切れ長の眼で、その低い声で、その優しさで、その嘘で、私を捕えるずるい人。
そんな彼と、
名前で呼び合えるのは、
隣を歩けるのは、
手をつなげるのは、
私だけ。
あの声の甘さを、
あの手の温かさを、
あの腕の力強さを、
味わえるのは私だけ。
彼の゙彼女゙にある権利。
私に与えられた沢山の権利。
だけどそんなの意味ないの。
優しいから、言えないんだよ。
『私のこと好きだよね?』
その優しい嘘で、『好き』と言われるのが、怖くて。