The Last Lie
何度柚杞の家に来てもこの瞬間が一番緊張する。
柚杞が階段を上がってきてドアを開けるこの瞬間。
自分のテリトリーにいる“彼女”である“私”を見てどう感じるんだろうって。
『はい、』
『…ありがとう』
手渡されるのは温かい紅茶。初めてここに来た時は、まだご両親が日本にいる時で、柚杞のお母さんが出してくれたのがこの紅茶だった。
『おいしい』って騒いだ私を覚えてるのか、柚杞は私が来るといつもこれを出してくれる。
柚杞はそのまま私の斜め横に腰を降ろして、自分に入れたコーヒーに口をつけた。やっぱりこの空間は柚杞によく馴染んでいる。柚杞が居ることで 部屋が完成型になる気がする程。
『…?柚杞、着替えなくていーの?』
いつも部屋に来ると普段着に着替えて、それからゆっくりするのに。
首を傾げた私に柚杞は黙ったまま横目で視線を向けて口を開いた。
『お前、どーしたの』
柚杞のマグカップがガラステーブルに置かれてコトリ、と音をたてた。