The Last Lie

今年の始め。半年前に私が呼びはじめたその名前は、私のよりもその人の声に馴染んでいた。

私以外の女の子がそう呼ぶのを聞いたのは初めてだった。


《柚杞…ごめんね?
いま都合悪かった?》






もうこれ以上聞きたくないと思った。その声で紡がれる【柚杞】を。




『なにしてんの?』


その声に我に返った。

いつの間に入って来てたんだろう。

柚杞は私に紅茶を差し出しながら

『今度はどんな遊び?』

そう言って首を傾げた。

紅茶を受け取ろうと手を伸ばして初めて気付く。
私の両腕は無意識のうちに両耳を塞いでいた。

確かにこれは不審者だ。
部屋に入って彼女がこんなことしてたらそりゃ誰でもびっくりするよね…


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