The Last Lie
『ねぇ、樺乃ちゃん』
今の会話で動く気が失せてまたさっきの椅子に座った時、
『伊川君が好き?』
まだ入り口の近くにいる男が私に問い掛けた。
『…だったらなに?』
一列目の棚に視線を巡らせながら素っ気なく応えた私を男の子は笑った。
でも振り返って見た笑顔は今までみたいな爽やかな笑いじゃなかった。何か企むみたいな嫌な笑いだった。
『樺乃ちゃん、ひとつ忠告してあげる』
『忠告?』
『そう、忠告』
口調は穏やかなのに金色の前髪から覗く二重の目は全然優しくない。
『人って揺らぐ生き物なんだよ…男も女も』
『……』
『もちろん伊川君も、樺乃ちゃんもね』