【短】アジのフライ定食二人前
自分で話題を振っておきながら、海砂は気のない返事をした。
「じゃあさ、家族とか恋人とか、ずっと浦島さんのことを捜してたのかな」
「……だとしたら、海砂はカメを助けたらダメだよ」
ようやく、彼女はこちらを見た。
吃驚したような、けれどちょっぴり嬉しそうな顔。
「ダメだなぁ、そこは『僕が竜宮城まで迎えにいくよ』ぐらい言ってくれないと」
「迎えにいく頃には、僕だけおじさんになってるかもよ?」
おじさんの僕と、中学生のままの彼女。
……笑えない。
けれど彼女は、楽しそうに笑った。
「私はトモを迎えにいくよ。おばあさんになっても」
ニコリ、と。
笑った彼女は僕の手を取った。