届かない声
 しばらく、沈黙が続いた。

 何か言った方がいいかと言葉を捜していると、彼女が腕の下から、くぐもった声を漏らした。

「わかってるけどさぁ…」

「うん?」

「もう、きっと来ないって、わかってるけどさぁ」

「うん」

「でもさー、信じたいじゃない?」

「何を?」

「約束、したんだから。信じたいじゃない」

「約束、ね…」

 彼女の声は、湿っているように聞こえた。

 フラれちゃったんだ。

 その言葉を、しかし僕は喉元で止めておいた。言ったところで、どうにかなるわけでもない。冗談っぽく言ったところで、彼女の不興を買うだけだろう。

 もう帰りなよ。きっとその人は来ないんだから。

 そんな僕の心の言葉が届くわけもなく、彼女は、呟くように語り出した。
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