届かない声
「約束、したのに、なぁ」

 その言葉に、僕はただ曖昧に笑い。

「この言葉が君に届くかはわからないけど」

 本当に、静かに。ただ、呟くように。

「本当は、こんな形で返事をしたくはないのだけど」

 自分に言い聞かせるように。自分自信を納得させるように。

「でも、言っておきたいから。残していくよ」

 その言葉を。

「僕も、君のことが好きだったよ。何より大切だった」

 吐き出し。

「だから、もう」

 彼女の頭を、ゆっくりと撫でる。

「僕のことは忘れて欲しい」

 僕の手が、温もりを感じることはなかった。




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