Cutting☆Lovers
「その文字は、紗羅さんの髪で作った筆の第一号で書いたものなんです。なかなか、いい出来でしょう?」

「うん。書道の事はよく分からないけど、何かグッとくるものがあるかも」

全くの素人のあたしが偉そうな事は言えないけど、本当にそう思った。

「そうですか?よかった。やっぱり、心を込めて文字を書くと伝わるものですね」

穏やかな笑顔。

上田のこの笑顔は、心を優しくする。

持っていた本を抱えるように持ちレジへ向かおうとすると、きちんと本棚に戻すように言われて、言い返した。

「いいの。コレ買うから」

あたしの口から出た言葉が意外だったらしく、そんなつもりで見せたんじゃないと慌てて言った。

「そんなの分かってるよ。あたしが欲しいと思っただけ。上田が気にする事じゃないよ」

「そう…ですか?じゃあ、僕も買うのでおそろいですね」

おそろいか…

何万部と刷られているものだから、持っている人なんて他にいくらでも居る。

だから二人が買ったからといって、おそろいという表現はおかしいのかもしれないけど、あたしはその言葉がやけに嬉しかった。



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