クリアネス

「……あ、はい」



思考のまとまらない頭のまま、とりあえず出なくてはと思った。



普段ならありえないことだ。


来客が誰であれ、レオの存在を知られるのは都合が悪い。



そんなことすら気が回らないくらい、あたしは動転していたのだろう。



ふらふらした足取りで玄関まで歩き、鍵に手をかけた。



「さくら、開けちゃマズイ――」



レオの静止の手があたしの肩をつかんだのと同時に、ガチャンと鍵が開いた。



来訪者によって、ゆっくりと扉が開かれる。



ああ……という苦悶の声が、背後のレオから聞こえた。




マンションの廊下の、薄明かりの下。


誰よりも見慣れた顔が、そこにあった。



だけどその顔は、あたしの後ろに立つレオを見て、完全に言葉を失っていた。




「……コウタロウ」





いくら気が動転していたとはいえ、どうしてあたしは鍵を開けたりしたんだろう。


いや、せめて、どうして先に相手を確認しなかったんだろう。