クリアネス
コウタロウの視線は、情けないくらいに立ち尽くすだけのあたしの肩をすり抜け
その後ろの少年に向けられていた。
「ごめん、来客中だったんだ?」
必死に平静を装ったコウタロウの声が、それほど広くない玄関に響く。
コウタロウはこんな状況に置かれても、いきなり問いつめて責め立てるような不躾な真似はしない。
だけど、この張りつめた空気に、当たり障りのない台詞はあまりにも不つり合いで
はち切れる寸前の水風船のような息苦しさを、たぶん全員が感じていた。
「ええ、もう帰るところです」
あたしは何もしゃべれないと判断したのだろう。
レオが今までにないくらいに行儀のいい声で、そう答えた。
感心してしまうくらいの冷静さで、あたしとコウタロウにあいさつをして、部屋を後にする。
レオの足音が完全に消えたのを確認すると、コウタロウはあたしの手を握り、リビングに入った。
床に転がる缶ビールに一瞬躊躇していたけど、すぐに手際よく片づけてくれた。
何も、聞こうとはしてこなかった。
いつも通りのコウタロウだ。
少し安心した。
「ごめんね」
なぜか、そんな言葉が出た。
体を売ろうが、他の男に抱かれようが
コウタロウに申しわけないなんて気持ちは、今まで感じたことがなかったのに。