クリアネス
「成瀬、ありゃ何だ?」
久々に店を訪れたオーナーの雪村が、ケースから1本葉巻を取り出し、言った。
「あれ?」
「おう。あれだよ」
くいっとあごで待機室の方を指す。
成瀬は雪村の葉巻に火をつけながら、ああ…、とうなずいた。
「僕の親戚の子供ですよ」
「そんなこと聞いてねえよ」
雪村は、そのぶ厚い唇から煙を吐き出し、成瀬の顔を白く染めた。
葉巻特有の甘ったるい匂いに、成瀬は一瞬だけまゆをしかめた。
「ここの待機室はいつから託児所になったんだ」
「すみません。何度注意しても来るもんで」
「まったく。俺はお前をせっかく見込んでたのによ。新店舗だってお前に任せてやろうかと思ってたのに」
「………」
「まあまあ。社長もそんなに怒らないで」
黙りこくる成瀬の背後から、ハスキーな女の声がした。
コンパニオンのマユミだった。
「おおー、マユミ。元気だったか?」
雪村の表情がゆるむ。
店の中でも一番の古株で、毎月コンスタントな売り上げをもたらすマユミは、オーナーのお気に入りだった。