クリアネス
ふう、と深く息をつき、成瀬は自分のデスクに座る。
「やっぱりあのオーナーは苦手だな」
その言葉に、マユミは肩をすくめて微笑んだ。
「けど良かったじゃない。出世のチャンス到来」
「ああ。本当にお前には感謝だよ」
「頑張ってね」
「ああ……」
言いながら成瀬の視線は待機室を向く。
それに気づいたマユミが、一歩成瀬に寄り添って言った。
「隼人のことなら心配無用よ。皆いるからさ。私も子供大好きだし」
「ん……」
成瀬はうっすらと微笑み、マユミを見た。
「……ねえ、店長」
「うん?」
「あの子……」
そう言って、マユミの声は小さくなる。
「あの時の子でしょう?」
「………」
成瀬は唇を閉ざし、もう一度待機室の方を見る。
その瞳は暗く、何も映していない。