クリアネス
「学校? そんなの行きたくないよ」
質問したコンパニオンが言葉に詰まるほど、あっさりと隼人は言い放った。
入学式を抜け出したあの日から、すっかり入りびたるようになったこの待機室は
隼人にとっては唯一とも言える居場所だった。
学校に行く気はこれっぽっちも無かったし、家も嫌だった。
成瀬は朝から晩まで働き通しで、あそこに独りでいても、ただ静寂が押し寄せるだけだから。
店には常に、コンパニオンの女たちが10人ほど待機していた。
スタッフから声がかかると、呼ばれた女は何か得体の知れない液体や、ウェットティッシュが入ったカゴを持って、待機室を出て行く。
そして30分ほどすると、何食わぬ顔で戻ってきて、
「チップもらっちゃった」
だとか
「あいつ、しつこくて最悪」
だとか、よくわからない話で盛り上がっていた。
そんな輪に加わるのが、隼人は好きだった。
理解できない話題でも、みんなが盛り上がっているところを見るのは楽しい。
賑やかなのは嫌いじゃない。
危険な場所も、それほど怖くない。
本当に恐ろしいのは、無の世界にひとり置き去りにされる、ということ。
隼人はこの待機室に、居場所を見つけた。