クリアネス
「ふーん。落ち着く?」
「うん」
「会ったこともないママを思い出すのかなあ」
マユミの言葉に隼人は黙り、胸もとに顔をうずめた。
「……わかんない」
温もりが、そこにあることが、奇跡のように思う。
優しい痛みを覚えながら、夜は更けていく。
次の日、隼人の小学校は長い春休みを迎えるための終業式だった。
こんな日くらいは登校しなさいという担任の言葉をしぶしぶ聞き入れ、隼人は半年ぶりに学校を訪れた。
「誰あれ?」
「さぁ?」
「あ、不登校の奴じゃん」
好奇の視線が八方から無遠慮に注がれる。
子供というものは残酷なくらいに素直だ。
だけど隼人にとっては、担任に呼ばれて訪れた職員室の方がつらかった。
「隼人君ね、春からは高学年になるんだし、少しくらいは……」
果てしなく長い説教をたれる担任の周りで、他の教師たちが瞳をチラチラ動かして隼人を盗み見する。
問題児に対する面倒臭さと、隼人の家庭環境に対する同情。
堂々と興味を示してくる子供たちの方が、よっぽどマシだと思った。