クリアネス

外の世界は冬の厳しい風が吹いていて、近くのゴミ捨て場から舞い上がった紙くずが、もともときれいじゃない街並みをさらに汚していた。



窓のすき間から冴えた空気が流れ込み、あたしと客の間に冷たい1本の筋を作ってすぐに部屋全体に広がった。



戻れなくなりそうだ。


あたしもあの紙くずみたいに風に吹かれて、飛んでいってしまいそうだ。


だからあたしは手探りで、背後の男の体をなでる。


あたしが飛ばされてしまわないように、しがみつく。



額縁みたいな窓枠の中で少しずつ姿を変えていく町の絵を、しばらく眺めた。



「俺、最近腰の調子が悪くてさ…。上になってくれる?」



25歳という年齢に似合わずそんな発言をして、客は床の上に寝転がった。



「どうしたの?」


「んー。ちょっと痛めちゃってさ」


「……今日はやめとく?」


「大丈夫だよ。まだギックリ腰とまではいってないし」



だけど私のせいで本当にギックリ腰になったら、業務上過失傷害じゃない。

そう言うと、客はあいまいに笑った。



< 12 / 270 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop