クリアネス
マユミは白湯を飲みながら、隼人の正面に座った。
「……聞いた? 妊娠のこと」
「………」
「若い頃何度も中絶してるから、もう子供は出来ないって諦めてたんだけどね。我ながらビックリ」
「………」
人形のように固まったまま口を開こうとしない隼人に、マユミは肩をすくめ、再び話し始める。
まるで聞かせることを前提とした独り言のように、たんたんと、隼人の前に現実だけを並べてゆく。
「相手は……私が、以前働いてた会社の上司。まあ一言で言えば不倫ってやつだったんだよね。
それが会社にバレかけて、あたしは泣く泣く退社するハメになるし、肝心の彼からはいつまで待っても答えは出てこないし。
だからそろそろ終止符を打とうと思ってたら……」
マユミはセッケンでかさついた手を、腹に当てた。
「この子が出来たの」
「………」
マユミの満面の笑みが、視界の端に映る。
隼人は言葉の出ない唇を震わせた。
テーブルに置かれたカフェオレのミルクが、少しずつ沈んでゆくのが見えた。
「彼に話したら、奥さんと離婚して私と一緒になってくれるって」
「そんなの変だよ」
突然声を発した隼人に、マユミの顔から笑みが消える。
「変?」
「うん、変だ」
「どうして? 奥さんのいる人と愛し合ったから?」
「違う!」