クリアネス

長い沈黙の後、ハァ、とマユミはため息をついた。



「やっぱり親が親なら、子も子ね」



聞いたこともないような冷ややかな声に、隼人は思わず顔を上げて見た。



「かわいそうだと思って、今まで我が子みたいに接してあげてたけどさ。
やっぱりどこか普通の子と違う考え方に育っちゃうのかしら」



面倒臭そうな、見下すような目。


職員室で見た大人たちと同じ目だった。



「お姉ちゃん……」



「他のコンパニオンの子たちは、みんな新しいから知らないだろうけど。
あなたの母親もちょっと変だったもんね」


「僕の、お母さん?」



初めて聞かされる“母親”の話に、隼人は鼓動が速くなるのを感じた。



「そう……あんたの母親」



かすかに鋭くなった、マユミの視線。



「最低の女だったわ」



息が止まった。


マユミは思い出を手でさぐり寄せるように一瞬黙り、そして


「知らないだろうから教えておくけど」


と隼人を見た。



「私たちの仕事はね、確かに男の人と裸で抱き合うけど、“セックス”を最後までするわけじゃないの。
なのにあんたの母親は、そのタブーを犯してた」



その言葉の意味が、隼人に全てわかるわけではない。



だけど、何となく理解できた。

自分の母親が侮辱されているということは。

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