クリアネス
マユミの表情からは、嫌悪のようなものがあふれていた。
「気持ちはわからないでもないわよ。お金が欲しいのは皆一緒だもん。
けどやっぱりさ、金のために本番させて、他の女の子の客まで奪ったあの女は、最低だと思う」
マユミは一瞬言葉を止める。
重い沈黙に、隼人の鼓動は激しさを増した。
「あげくの果てに、子供まで出来ちゃってさ」
「……」
「どこの誰の子だかわからない赤ん坊……産むなんて言い出した時は、頭が狂ったんじゃないかって皆がうわさしたもんよ」
マユミはタバコを一本取り出した。
そして火をつけようとして
「あ、おなかの子に悪いんだった」
と笑いながら、ゴミ箱に捨てた。
隼人は声を出すこともできない。
それとは裏腹にマユミの唇からは滑るように言葉が落ちてゆく。
「まあ、それであなたが生まれたってわけ。その時に母親は死んじゃったけどね」
それは初めて聞く真実だった。
顔も知らないその人の命の上に、自分の存在が成り立っていたなんて。
考えたことも無かった。