クリアネス

隼人はマユミのアパートを出た。


とぼとぼ歩いて、気づくと自分の家の前まで来ていた。



古びた長屋。


一度だけ、成瀬が母親の話をしたことがある。



お前のお母さんは、ずっとこの家で暮らしてたんだぞ、と。




重い引き戸を開けて中に入る。


居間のテーブルの上に、一万円札が3枚置いてあった。


隼人はその1枚を持って、ひとり、コンビニに向かった。


そして小さな弁当と、オレンジジュースを買った。





それ以来、隼人が店を訪れることはなかった。










5年の月日が流れる。


隼人は中学卒業を迎える年になっていた。



あんなに嫌いだった学校にも、小学校高学年からは少しずつ通うようになった。



初めは珍しそうに見ていたクラスメイトたちともすぐに打ち解け

隼人は少しずつ、普通の子供としての生活になじんでいったように見えた。



成瀬と顔を合わすことはなかった。


だけど、どこかそう遠くはない場所で、元気に働いているのだということだけはわかっていた。



時々、家に帰るとテーブルの上に、金が置かれてあったから。





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