クリアネス
「中川、今日渋谷寄ってかねぇ?」
放課後、隼人はクラスメイトの一人に声をかけた。
中川はニヤニヤと顔をほころばせ、隼人の肩に腕を回す。
「悪ぃ、隼人。今日はパス。彼女とこれからさ、ラブホなんだよなー」
「ああ、そうなんだ」
はしゃぐ中川の腕をほどき、隼人はカバンを手に取る。
「おいおい、なんでお前ってそんな感じなわけ?」
「は?」
「だからさ、普通は、うらやましい~っとか、俺もヤリてぇ~っとか」
「興味ねーもん、せっくす」
「もったいねーよな、隼人、超モテるのに」
「俺は右手と結婚するから別にいいんだよ」
ギャハハハ、と下品に笑いながら教室を出て行く、中川の後ろ姿に手を振る。
「……さ、俺も帰ろっと」
校門を出てひとりで歩いていると、1台の車がすぐ横を通り越した。
と思うと、急にブレーキをかけ、今度はバックで戻ってピタリと横につけてくる。
スモークを張った窓が静かに下りた。
「やっぱり! 隼人じゃないの」
高級そうなスーツをまとった、厚化粧の女が顔を出した。
一瞬、誰かわからず、隼人は戸惑った。
「……あ」
「思い出した? 私よ、私」
「マユミさん?」
にっこりと笑うマユミの目じりに、昔は無かった深いシワが見えた。