クリアネス
「帰り? 乗りなよ」
「いえ、いいです」
「そんなこと言わずにさ。早く」
後ろの車がクラクションを鳴らす。
隼人は小さく舌打ちして、助手席に乗り込んだ。
「いやー、久しぶりだよね。何年ぶり?」
「……5年ぶり、ですね」
「そっか。あたしが妊娠した時以来かあ」
「その、……お子さんは?」
「ああ、別の所で暮らしてるよ」
あっけらかんと言い放つマユミに、隼人は面食らう。
「やっぱ男の浮気ぐせって直らないのかな。やっと結婚できたと思ったら、またすぐに外で女作っちゃって。
頭にきたから離婚してくれって言ったら、子供は取られちゃったんだよね」
「……そのわりには、元気ですね」
「まぁねー、あたしもひとりになって最初は不安だったけど、軽い気持ちで始めたネットのビジネスが当たってさ。今はこの通り、女社長よ。
……それより」
まっすぐ前を見て運転していたはずのマユミの視線が、怪しく助手席に流れる。
「ガキの頃からきれいな顔してたけど、ホントいい男に育ったよね」
隼人は無表情のまま、次々に変わっていく外の景色を眺める。
「美味しそう」
車はホテルの駐車場へと吸い込まれていった。