クリアネス
「すげー……。これってもしかして、日本で最後に沈む夕日なのかなあ」
隣のレオが言う。
あたしは少し考えてから答えた。
「うーん、どうだろ。確かに東京よりは遅いだろうけど、本当の最後に沈むのは与那国島じゃない?」
「よなぐに?」
「うん。日本最西端の島だから」
「そっか。いつか見てみたいな」
「いつか、行こうよ」
西からの光が水面に反射して、まぶしさに目を細める。
神秘的にすら感じられる光景に、あたしたちは黙ったまま見入っていた。
青から黄金色、そして橙。
刻々と、空が変化してゆく。
太陽はまるで闇から逃げるように、水平線へと隠れていく。
「俺さぁ」
ふいにレオがつぶやいた。
右隣りを見ると、夕日に照らされて赤く染まった横顔があった。
まっすぐに夕日を眺めるレオを見て、あたしももう一度、まっすぐ水平線を向いた。
「俺、親がいなかったんだ」
「……うん」
「今の店のオーナーが、俺の親代わり」
「……うん。知ってる」
「そっか」
それっきり、レオはまた黙ってしまった。
どうして、突然あたしにこんな話をしたのかはわからない。
けれど、レオの手のひらは温かくて
あたしはそれ以上話をうながすようなことはしなかった。