クリアネス
……コウタロウは、何も気づかないんだろうか。
あたしの変化を。
あたしはさっきまで、コウタロウのことなんか忘れてたのに。
なのにどうして、こんなあたしを好きでいるの?
「やめて」
唇が触れるすぐ手前で、あたしは顔をそらした。
「さくら?」
コウタロウの表情が凍りつくのがわかった。
「……帰って」
「え?」
「帰って!!」
あたしはコウタロウの腕をつかんで立たせると、両手でその体を押し、玄関の外へと追いやった。
「ちょっ……どうしたんだよ!」
青ざめるコウタロウを無視して、扉を閉ざす。
「さくら! さくら!?」
鍵の閉まったドアノブを、無理やりこじ開けようとする耳ざわりな音。
そして何度もあたしの名前を呼ぶ声が響いた。
バンッ!!
あたしは力いっぱい、内側から扉を殴った。
その音に、外にいるコウタロウが静まりかえる。
あたしはもう一度、扉にこぶしを打ちつけた。
貴方じゃないんだ。
……貴方じゃない。
あたしが欲しいのは、貴方じゃない……。