クリアネス

ショートケーキがテンポ良く、ミカの口に運ばれていく。


あたしは食欲なんかなかったけど、せっかく買ってきてくれたミカに申しわけないから、ほんの少しだけ口に入れた。


生クリームの甘ったるい味に、吐き気がした。



しばらくふたり、無言が続き、部屋の中にはお皿とフォークのぶつかる音だけが響いていた。



「あ、あのさっ」


突然ミカが口を開いた。



「大学、そろそろ出てきた方がいいんじゃない?」


「………」


「皆心配してるし……コウタロウも」



ミカの声は気まずそうに、唐突にこもっていった。


あたしは黙ってそれを聞いていた。



「ねえ、さくら。何かあったら言ってね。友達でしょ?」



まるで確認するように“友達”という単語を強調するミカ。


あたしは相も変わらず黙ったまま、ただ小さくうなずいた。



「あ、今度の日曜さ、コウタロウも入れて皆でバーベキューしようって言ってるんだけど、一緒に行こうよ」


「バーベキュー?」



思わず反応してしまったあたしの言葉を、ミカは興味の表れだと勘違いしたらしい。


急に目を輝かせ、まくし立ててきた。



「うん! 皆すっごい乗り気なんだから! ツヨシなんかバーベキューセットなんてそろえちゃってさ。まるでキャンプにでも行くみたいに本格的なやつ」



嬉しそうなミカを見て、あたしは断る勇気が折れていく。



ほんとは、沖縄での楽しい夜を思い出すから、今はバーベキューなんかしたくない。


だけどミカはもうすでに、あたしも参加するものだと思ってしまったらしい。



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