クリアネス
「――きゃあっ!」
ミカの声と共に、突然、海からの強い風が吹いた。
髪のセットが崩れると言って、ミカはきゃあきゃあ叫んでいる。
どこからか砂が飛んできて、あたしの肩にはりついた。
優しいクリーム色をした砂。
まるで、レオの髪のようだと思った。
あたしは一粒砂を手に取ると、ポケットの中に入れた。
持って帰りたかった。
その日の夜は、久しぶりにコウタロウの部屋に泊まった。
新作のDVDを見て、少しお酒を飲んでセックスした。
あんまり気持ち良くなかったけど、コウタロウがあたしの裸を可愛いって言ってくれたから、なんとなくイケたような気がした。
眠れないまま、朝を迎える。
コウタロウは静かに寝息を立てていた。
あたしが動いても起きる気配すら見せない。
よっぽど疲れていたんだろうか。
服を着て駅へと向かった。
始発までかなり時間があったからゆっくり歩いた。
動き始める前の街は、凛として、空気が冷たい。
車の走っていない大通りは、ガソリンの代わりに街路樹のにおいがした。
ゴミ捨て場の近くでカラスが群れを作っていた。
飢えを知らない都会の鳥は、丸々と太ってふてぶてしい。
餌をやるふりをしたら、カラスたちはそっぽを向き、東の空へと飛んでいった。