クリアネス

あたしが駅に着いたのと同時に、シャッターが開く。


ホームのベンチでタバコに火をつけ、冷えた空気と一緒に吸い込む。



それを一本吸い終わる頃、ぽつぽつと人が入ってきた。


みんな一様に疲れ切っていて、夜を引きずったままの顔。


始発電車を待つ顔ぶれの中に、今日を始めようとしている人なんか一人もいない。



しばらくして、電車が到着した。


ほとんど無人状態の車内で、心地いい揺れに身を任せた。



流れていく景色が、次第に活気づいてくる。


一日が始まる。


電車は停車するたびに、新しい顔を迎え入れる。




……こんな、知らない人だらけの世界で

どうして出会えてしまったんだろう。



会いたいなあ。



やっぱり会いたいよ、レオ。





「大丈夫ですか?」



突然、隣に座っていたおじいさんに声をかけられた。



「え?」


「涙、出てますよ」


「あ……」



なぜか羞恥心も感じず、あたしはあふれてくる涙を流れるままにしていた。


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