クリアネス
突然の申し出に驚いた。
隣のレオを見ると、まだ少し放心状態ではあったけど、あたしと同じように目を丸くして、アキラさんの話を聞いていた。
「何の偶然かな。ちょうど今、俺の部屋は空き家状態やねん。解約日まで2週間ある」
「でも……じゃあアキラさんは?」
「俺? 俺はもっぱら、こいつの部屋に入りびたり中」
そう言ってアキラさんは、ピンと立てた親指の先をエリコさんに向けた。
「そやねん。それならいっそのこと、ちゃんと一緒に住もうってことになってな」
エリコさんがはにかむ。
「……ホントに、いいんですか?」
にわかには信じられず確認するあたしに、アキラさんは、男前な笑顔を見せた。
「ただし、大阪やで。今からボケとツッコミの練習しとき」
明日の朝チェックアウトしたら大阪まで送っていく。
そう言ってふたりは、自分の部屋へと帰っていった。
「……よかったね」
あたしは部屋の鍵を閉めると、レオの方を振り返った。
レオはまだ人形のようにうつろな瞳で、ベッドの端に座ったまま、じゅうたんについたタバコのこげ跡を見ていた。
「レオ。大丈夫?」
「あ、うん」
レオは前髪をかき上げながら、目を2、3度しばたたかせる。
「そうだな。よかった」