クリアネス
大阪に来てちょうど10日目の、小雨が降った夜。
「さくらちゃん、携帯光ってるで」
エリコさんの部屋で、4人で鍋をしていた時だった。
アキラさんが白菜を器に取りながら、あたしのバッグを見て言った。
チカチカ、青とピンクのイルミネーション。
メール受信の合図だ。
この10日間、何度となく目にした光だけど、それに誘われて携帯を開いたことは一度も無かった。
いっそのこと電源をオフにしておこうかとも考えた。
けど、それをしてしまうと、ますます周囲の心配をあおるだけだ。
アキラさんにそう言われたから、あたしは使い道のない携帯を毎日充電し、バッグの中で放置していた。
「1回見てみたら? 親御さんからのメールかもしれんし」
食事の手を止めてあたしを見る、エリコさんの心配そうな瞳。
「うん……」
ビールを飲み干し、バッグの中をまさぐった。
久しぶりに見る、自分の携帯の待ち受け画面。
やたら重く感じる親指を動かし、メールボックスを開く。
……見なきゃよかった。
反射的に、そう思った。
おびただしい数の未読メールが列を作り、画面いっぱい埋め尽くしていた。