クリアネス
翌朝早く、あたしたちはエリコさんのマンションを訪れた。
「ホントに、お世話になりました」
深々と頭を下げて、アキラさんに部屋の鍵を返す。
「いや、ええよ。人助けっちゅーのも、たまには悪くないしな」
アキラさんは、はにかんで鍵を受けとると、それを手のひらにのせてしばらく眺めていた。
「……ごめんな、何もしてあげられへんくって」
「とんでもない。充分です」
しんみりした空気が部屋を漂う。
それを振り払うかのように、
「よっしゃ。駅まで送っていくわ」
とアキラさんはあたしたちの背中をポンッと叩き、車のキーを手にした。
車内のステレオから流れていたのは、アキラさんが好きな洋楽のロック。
名古屋から乗ってきた時に聴いていたのと、同じアーティストだ。
たった10日間だったけど……。
感謝の気持ちは言葉では言い尽くせない。
「なあ、エリコぉ。今度一緒に、俺の実家帰ってみーひん?」
信号待ちで止まっている時、不意にアキラさんが言った。