クリアネス
「……どうしたん? 急に」
突然のことで、エリコさんはもちろん、あたしもレオもポカンとしてしまう。
「んー、まあ何っちゅーか……そろそろお前のこと俺の親に紹介したいなぁ、みたいな」
信号が青に変わり、ゆっくり車が動きだす。
しばしの沈黙の後、
「……別に、ええよ」
顔を赤く染めて、小さく答えたエリコさんの声。
あたしもレオも自然と笑みが漏れる。
「俺、さくらちゃんたち見てたら、なんか昔の自分思い出したわ。
逃げたことで周りに迷惑かけたかもしれんけど、おかげで大事な宝モン見つけられたし。
今なら胸張って帰れる」
ミラー越しに見た、その時のアキラさんの澄みきった笑顔。
あたしは、たぶん一生忘れないだろう。
天王寺駅の前で、車を降りた。
朝のラッシュ時を過ぎた駅は、私服の若者たちが行き交い、ティッシュ配りのアルバイトの声が響いていた。
「なんかあったら、また相談して。無理したらアカンで」
最後まで温かい言葉をかけてくれるアキラさん。
「おばさんに電話して伝えとくからね」
親指を立てて笑うエリコさん。
ふたりに別れを告げて、あたしたちは駅の切符売場へと向かった。