クリアネス
目にとまった、フローリングの傷。
これは、レオがソファの上で飛び跳ねた時についたもの。
壁に開いた画鋲の跡は、レオが格闘家のポスターを勝手に貼ろうとしたから。
今あたしが立っている場所は、昨日までテレビが置いてあったスペースで。
レオとふたり、コーヒーを飲みながらDVDを見ていた。
思い出は、まだチクチクと痛むけれど
少しずつ優しさに変化しつつある。
あたしはカーテンの無くなった窓から、向かいのビルに視線を走らせた。
……あの事務所には、今はもう誰もいない。
レオが捕まったことにより、店は未成年を働かせていた事実などが芋づる式に発覚し
あっという間に空き物件になってしまった。
こうして見ると、向かいのビルってこんなに遠かったんだな。なんて、不思議に思う。
賑やかだったあの頃は、もっと近くに感じていたから。
……だけど
今でも手を振れば
道路を隔てたあの窓から、金色の髪をした男の子が
無邪気に振り返してくれるような気がするんだ。
そして突然、あたしの前に現れて
“ツツモタセ”
そんなバカげたこと、不敵に笑いながら言うの。
迎えに来てね。
きっと。
ずっと待ってるから……。
誰もいない向かいのビルに手を振って、あたしは部屋を出た。