クリアネス
「……あの、私に用事って?」
まだ落ち着かない胸をなでながら、あたしは営業スマイルを返す。
……バカだなぁ、我ながら。
早とちりもいいとこだ。
「用事ってゆうか、俺、今日から別の宿で1カ月滞在するんだけどさ。
さっきこの情報誌見て、君に一目惚れしちゃって」
「はぁ」
「俺と付き合わない?」
一見軽そうな風貌の彼は、実際に軽い人柄のようで。
「無理です」
あたしは営業スマイルを保ったまま、きっぱり断る。
「えー? なんで?」
「なんででも」
「こんな島に移住してきたくらいだから、彼氏いないんでしょ?」
「ええ。でも」
「でも?」
「再会を約束した人がいるから」
「どこに?」
「ここに」
そう言ってあたしは、右手を彼の前に差しだす。
薬指には、今も光る、シルバーの指輪。
少しくすんできたけれど、輝きはあせない。