クリアネス

「ペアリング? ……って、右手じゃん」


「そ。これがあたしたちの約束なの」



わけがわからない、といった表情で彼が去っていくのを見送ってから


あたしはシルバーリングにキスをした。









与那国の夕暮れは、東京よりもずっと遅い。



普段なら宿の手伝いで忙しいこの時間帯。


夕日を見るために島の西側まで来るのが、休日のあたしの定番だ。




浜辺にひとり腰を下ろして、足の指の間を埋める砂とたわむれながら、その時を待つ。



そしてやがて、1日の役目を終えた太陽が眠りにつく時。


自然は切ないくらいの美しさをもって、あたしの前に姿を現す。




「きれい……」



思わず漏れるのは、いつだってシンプルな言葉だ。



群青色の絵の具を1本使いきったような濃いブルーが、徐々に空と溶け合って、神々しさすら感じさせる。


その姿は、どれだけ色を使ってもパレットの上じゃ表せない。



海と重なった太陽があたしを照らす。



まばたきもせず見入ってしまう

日本で最後に沈む夕日。



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