クリアネス
ふと時計に目をやると、すでに日付が変わっていた。
こんな遅くまで出歩いていてレオの両親は心配しないのだろうか。
あたしの不安をよそに、レオは帰る気配を見せなかった。
「ねえねえ、さくら。いつも日曜は何してる?」
「客を呼ばない日は適当に友達と遊んでるかな」
「じゃあさ、今度の日曜は俺と格闘技観戦なんてどう?」
「格闘技?」
思いもよらない誘いに、あたしは目を丸くした。
レオはおもちゃを与えられた少年の瞳で語り始める。
「一緒に行くはずだった友達が熱出してさ、チケット余っちゃってさ。さくら、興味なし?」
「んー……てゆうか、たいしてルールとかわかんないし」
「そんなの、なんとなくでいいんだって。KOのシーンなんか観てるだけでスカッとするし、ストレス解消にはもってこいだし」
あんたにストレスがあるの? と言うと、俺は単に強い男に憧れてるだけだよ、と屈託なく笑うレオ。
その笑顔に、あたしは軽い目まいを覚える。
いつも窓からのぞき見していたあの表情と同じ。
笑顔を向けられた相手が、思わずむせかえりそうになるくらい……
無邪気で、一点の曇りもない。