クリアネス

「とにかくさ、せっかくのチケットなんだから試しに行ってみようよ」


「なにも、あたしじゃなくても、友達にも格闘技ファンはいるでしょ?」


「俺はさくらと行きたいの」



駄々をこねる子供のようなしぐさでレオが言う。


あたしはなぜか、目をそらしてしまった。



レオは床に落ちていたジーパンのポケットをまさぐり、一枚の名刺を取り出してテーブルに置いた。



「これ、店用の名刺だけど、ちゃんと俺のケータイ番号書いてあるから。とにかく日曜連絡ちょうだいね」



勝手にそう言い残し、タップを踏むような軽い足取りで玄関に向かうレオ。



そして帰り際、一度だけあたしの方を振り返って、


「さくら、おやすみ」


と笑った。







レオが帰ってしまったそのとたんに部屋は静寂を取り戻し、天井がやけに高く思えた。


妙に肌寒く感じて、あたしは急いで水玉模様のパジャマを着る。

暖房を入れているはずなのに、肌寒い。

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