クリアネス
第1章【ツツモタセ】
「さくら、後ろがちゃんと巻けてないよ」
講義室の机に腰を下ろすなり、ミカはそう言って慣れた手つきであたしの髪をコテに巻きつけた。
「ほんとに? やっぱりあたしって不器用なのかな」
「んー。さくらの髪はサラサラすぎて巻きにくいんだよ」
美容師に憧れたこともあるというミカは、頼んでもいないのに嬉しそうに巻き髪を作っていく。
熱々のコテを髪に当てるたびに、わずかに聞こえる、ジューッとどこか美味しそうな音。
「ミカさあ、それって今年の新作?」
あたしはミカの耳もとでさりげなく揺れる、見慣れないピアスを指差した。
ピンクゴールドに小粒のダイヤがのっていて、その遠慮がちな華やかさは、いかにも彼女らしい。
ミカは「まあね」なんて、わざとそっけなく言う。
得意な気分になってる時の、彼女の癖だ。
ミカに髪をセットしてもらいながら、おしゃべりに興じるのがあたしの朝の定番で、その内容はだいたいいつも同じ。
昨夜のテレビドラマ
最新のブランド物
あの携帯のカメラは高画質らしいよ、とか、そんな感じ。
「はい、完成」
そう言って、ミカはあたしの髪からコテを離す。
それと同時に、講義室の引き戸がガラガラと重い音をたてて開いた。