クリアネス

「よくお似合いですよー」


ワンピースを着て試着室から出たあたしに、店員の女が抑揚のない声で言った。


「ちょっと派手じゃありません?」


「そんなことないですよー。お客様、細いですし」



棒読みの台詞とは裏腹に、女の営業スマイルは完璧だった。


新人研修のマニュアルにそのまま載せてもいいくらいだ。



あたしはそのワンピースを買うことに決めた。




3時間も経たないうちに、あたしの両手には大量の紙袋がぶらさがっていた。


すごく重たいけれど、それはあたしを華やいだ気持ちにさせてくれる。



そういえばと、あたしは2年前を思い出した。




あたしが風俗を始めたきっかけ。


ちょうど今日と同じような感じで買い物が止まらなくて、それを繰り返すうちカードの返済が間に合わなくなったのだ。



そんな時、たまたま本屋の求人誌コーナーで、薄っぺらい一冊の本を見つけた。


ちゃちな表紙をめくると、そこは破格の給料をアピールする求人広告であふれていた。



『日給3万5000円以上』

『未経験者大歓迎』


甘い誘い文句の裏に、いかがわしさがありありと漂っていた。



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