クリアネス

「ほら! 早く座って!」



レオはあたしの手からタバコのケースを奪うと、「早く早く!」なんて言いながら背中を押して、あたしを無理やり座らせた。



選手コールと同時に大音量の音楽が始まり、スポットライトが入場口を照らした。


そこに現れた人影に、会場のボルテージはますます上昇した。



鉄砲水のような勢いで、あちこちから飛び出す歓声。


選手は右手を高々と上げ、自分をアピールしながらリングに向かった。



「すげー!」



レオは体を乗り出して興奮しているけど、正直言って何がすごいのか、あたしにはよくわからなかった。



熱気の中心でマッチョな男がふたり、パンツ一丁の姿でにらみ合っていた。


ゴングが鳴ると赤パンツの人が白パンツの人にタックルして倒れた。



レオは隣のあたしのことなんかすっかり忘れたみたいに、「すげー。まじすげー」を連呼してる。


興奮のあまり、時々おしりが椅子から離れた。




結局、その後約4時間。


筋肉男たちの裸のからみ合いを、あたしは延々見続けるハメになった。


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