クリアネス
家に帰ると、あたしはまずシャワーを浴びて、丁寧にムダ毛の処理を行った。
敏感な皮膚が刃物で傷つかないよう、慎重にカミソリを滑らせる。
肌を覆う真っ白なシェービングフォームが、稲刈りのように除かれてゆく。
お風呂上がりに1杯だけアロエジュースを飲み、髪をストレートに乾かし
そしてまゆげと唇にだけ薄く化粧をほどこす。
バスタオル一枚を巻いただけの姿でベッドに腰掛け、メンソールのタバコに火をつける。
全て、仕事前の儀式のようなものだった。
この儀式を済ませることで、あたしのテンションはやっと仕事モードまで押し上げられる。
あたしという人間は、今からただの“商品”になるのだ。
タバコを唇で挟んだまま、あたしはディズニーのポーチから避妊具をひとつ取り出し、枕の下に忍ばせた。
ピンポーン、と高らかに鳴った玄関のチャイムで、あたしは急いでタバコの火を消す。
そして消臭スプレーを部屋中に吹きかけ、笑顔をまとった。
「サクラちゃん、会いたかったよー」
今日のお客さんは斉藤さんといって、パチンコ店を経営しているおじさんだ。
彼はあいさつもそこそこに、あたしのタオルの結び目に手をかけた。
「まずはシャワーを浴びてきてくださいね」
にっこり笑って嗜めると
「今サウナに行ってきたばかりなんだけどな」
斉藤さんはぶつぶつ言いながら風呂場に入っていった。